日本コンベンション研究会

 

2015/4/30 更新

国際観光コンベンションフォーラム 2015 in 金沢 開催
全国から110名参加し、熱い議論を展開

当コンベンション研究会は、「国際観光コンベンションフォーラム2015 in 金沢」(事務局:札幌国際プラザ、コンベンション札幌ネットワーク)を、去る2月17日、18日の両日、金沢市にある石川県政記念 しいのき迎賓館で開催しました。
   今回のテーマは「日本MICE ― その課題と展望」で、全国から観光コンベンション関連団体・企業、行政機関などから110人が参加。特別講演、基調講演、分科会、意見交換会、パネルディスカッション、エクスカーションを実施しました。

 

[1日目]
特別講演「民間による広域観光推進〜昇龍の如く」
多田 邦彦 (ドラゴンルート推進協議会 会長)

多田 邦彦 (ドラゴンルート推進協議会 会長)

特別講演は、和倉温泉「多田屋」社長で、ドラゴンルート推進協議会会長の多田 邦彦氏。 愛知・岐阜・富山・石川を縦断する「ドラゴンルート(昇龍道)」。能登半島を龍の頭に見立て、神秘的な昇り龍のように見える新たな観光ルートを、ゴールデンルートに次ぐものとして発展・浸透させるための取り組みをご紹介いただきました。

多田 邦彦 (ドラゴンルート推進協議会 会長)

最初に氏はドラゴンルート推進の取り組みがどのように始まり進められてきたかを語り、その中で公的機関である中部運輸局、中部国際空港、また民間では中日ドランゴンズなどを巻き込み、協力を得ることで「ドラゴンルート」が中部地方を超えてより広い地域に広がりつつあると述べました。

多田 邦彦 (ドラゴンルート推進協議会 会長)

また、ハーレーダビッドソンに乗る台湾の富裕層をターゲットとしたモデルコースについて触れ、実際に台湾からのツアー客が参加した際の映像を紹介してくださいました。映像には飛騨高山などの古い街並みをハーレーで巡りながら旅行を楽しむ台湾ツアー客の様子が映し出されていました。一週間、車でツアー客を追いかけた氏は、最後には彼らと心を通わせたとのエピソードについても語りました。
   最後に氏は、地域の観光を推進するために、往復運動ではなく回転運動が重要だとし、特に金沢では東京から来て東京に帰るのではなく、金沢から北陸や高山に足を延ばすルートを推進していくこと、金沢市内でも、古くからある兼六園のような観光スポットのほかに、金沢駅の反対側、金沢港にむけて新たな観光スポットを築いていく必要があると語りました。
   新たな発想によって独立して存在していた観光地を結び、地域として成長していく成功事例として、実に興味深い講演となりました。

基調講演「日本のMICE産業へのメッセージ」
故 浅井 新介 (MPI Japan Chapter 名誉会長)

基調講演「日本のMICE産業へのメッセージ」

基調講演は、MPI Japan Chapter名誉会長(故)浅井新介氏を予定していましたが、本年1月9日、当フォーラムでの講演を目前に同氏が急逝されたため、同氏を偲び、日本のMICE振興に情熱をそそいだ同氏に学ぶため、生前に録画された同氏の講演ビデオを上映しました。
   ビデオの中で浅井氏は国内人口が減少し、先進国でありながらGDPが減少し景気の先行きが不安定な日本には第3次産業、特にMICEの推進が必要不可欠とし、そのためには日本人がMICEについての知識を深めること、女性の目線が必要であること、サービス業での外国語対応が必要であることをまず述べました。
   さらに、MICEをそして経済を発展させる重要な三つのものとして、「大型ハブ空港」、「大型コンベンションホテル」、「大型MICE施設」を挙げ、すでに諸外国ではずっと昔から国を挙げてこうしたことに戦略的に取り組んできたとして、シンガポール、韓国、オーストラリアなどの例を挙げ、「MICEとは何か」という問いに対する、MICEの4原則について、1「MICEは必ず目的を持つ」、2「コミュニケーションが生まれる」、3「インフォメーションや知見が集まる場」、4「良い未来を創る」と語りました。
   さらに、ホテルのMICEマーケティングのヒントとして、4つの焦点に絞り、一つ目に「ターゲット」を明確にすること、二つ目に「プロセス」、三つ目に「発信すること」、四つ目に「再構築すること」を挙げました。「プロセス」についてはホテル視察の際の悪い例・良い例を挙げ、MICEの主催者が必要としている情報、迅速なレスポンスの必要性について述べました。また、「発信すること」についてはアピールしたいことについて、戦略的な情報発信が必要であるとともに、それが英語で発信されることが必要としました。「再構築すること」についてはホームページの再構築にMICEを取り入れて宿泊数の回復を図った伊豆や宮崎の例を語りました。
   MICEの振興に情熱を捧げた浅井氏の言葉に、会場は真剣に耳を傾け、氏の意思を未来へつなぐ講演となりました。

■第1分科会「地域文化・歴史遺産をMICEでどう活かすか」

第1分科会「地域文化・歴史遺産をMICEでどう活かすか」

第1分科会のテーマは、「地域文化・歴史遺産をMICEでどう活かすか」。地域の文化を知り、その活用を図ることが、地域MICE発展のカギとして、都市環境マネージメント研究所 研究員の西川 和宏氏をコーディネーター、北陸大学未来創造学部教授の長谷川 孝徳氏をスピーカーにお招きし、お話しいただきました。
   長谷川氏より、地方都市で行われる学会や会議の際には、参加者にとって会議後等のエクスカーションが大きな魅力であり、歴史遺産が豊かな金沢では、古い街並みを生かした「町歩き」や、伝統工芸・伝統文化の見学や体験、食文化などMICEに活用できる素材が十分にあると紹介した。また、三大名園の中で唯一四季の明確な兼六園は、夏の会議で訪れた参加者が、冬の兼六園の写真を見て再び金沢を観光で訪れるといったエピソードも提供。さらに、氏は伝統工芸、食など地域の文化は、地域「限定」であることでブランドの維持ができることや、伝統的なものは「本物」を、きちんとした裏付けをもって紹介していかなくては、価値を下げてしまうと注意を促しました。

第1分科会「地域文化・歴史遺産をMICEでどう活かすか」

西川氏は金沢城や伝統的な醤油蔵、裏千家の茶道の文化や工芸、菓子体験、芸妓文化や能など、金沢の歴史遺産や伝統文化が、実際にどのようにMICEに活用されているかを紹介。歴史的建造物では許可を取りにくかったり、空調などの設備が不十分なケース、利用者側のマナーや協力が必要など、MICE利用に課題も多くあることを指摘しました。
   さらに、西川氏は分科会に参加していた他地域からの参加者に、それぞれの地域での歴史文化などユニークベニューのMICE利用について尋ねました。会場からは、地域の歴史遺産に対し世界遺産認定を取るために規制を強化しようとする動きがある中で、それをMICEに活用しようとすることのジレンマや、戦災などで歴史遺産が残っていない中で、新たな観光資源、ユニークベニューを開発していこうとする取り組みなどが発表されました。
   国宝級、世界遺産的な施設は様々な規制があるが、難しい面については知恵と熱意で活かすことができる。一方、歴史遺産がなくても、それぞれの地域が持つ風土や食のFOODといった地域文化がある。利用者側が持っているニーズを汲み取り、地域素材とどうマッチングさせて活かすかが重要であり、このフォーラムを地方都市で開催する意義を再確認した。

■第2分科会「MICE誘致の潮流」

第2分科会では「MICE誘致の潮流」をテーマに、JTB総合研究所 主席研究員/東京国際大学客員教授の太田 正隆氏をコーディネーター、MICEジャパン 企画営業部長の佐藤 純治氏、ピーオーピー 編集部の田中 力氏をスピーカーに招き、MICE誘致の課題について意見を交換しました。

第2分科会「MICE誘致の潮流」

佐藤氏は海外MICE関係者へのインタビューの際に指摘された日本のMICE業界の課題として、観光・MICEの開発に関わるトップの人間を2〜3年で交替させてしまうのではなく、プロパーを育成して上に行かせ定着させなければ、国として十分な力が発揮できないこと。MICEのマーケティングには十分なマーケットリサーチをして、それぞれの一番強いところ、得意分野をしっかりと売り込んでいかなければならないということ。同業界でもっと女性が活躍できるようにするべきだということを挙げました。また、フィリピン、ベトナムのステークホルダーの教育現場を訪問した経験から、これらの国の業界のハングリー精神や、英語圏ということも強みになり、近い将来日本の脅威になりうると述べました。
   田中氏からはアジアの例として、ITでファムトリップの様子を全世界に流し、インターネット投票を行った台湾のTAITRA(貿易経済局)のプロモーションや、タイ全土を6つのクラスターに分けて、クラスターごとの特徴を持たせたTCEBのPR戦略を紹介。さらに、イギリスの事例として、市内にあるベニューの申請や契約を統一して利用しやすくしたほか、夏休み期間中の空いた有名大学の学生寮を宿泊施設として提供したケンブリッジの取り組みや、二つの町が共同し一つのコンベンションビューローとして運営しているニューカッスル・ゲーツヘッドの事例が提供されました。
   太田氏は、それぞれの国の事例はとても参考になる部分と、体制が違うので必ずしも参考にならない部分があると注意を促した上で、誘致のマーケット開発について会場にもマイクを向けました。名古屋コンベンションビューローからはMICE誘致のための大学との連携協定について、軽井沢リゾート会議都市推進協議会からは冬季が閑散期となる観光産業を支えるためのMICEの必要性などが発表されました。

第2分科会「MICE誘致の潮流」

第2分科会「MICE誘致の潮流」

また、佐藤氏は、マーケティング情報を入手するためにはICCAやUFI、SITEなどの国際組織の会員になり、外部とのコミュニケーションをしっかり取っていくことが必要だと述べた後、日本人のプレゼンテーションの欠点として、文字数が多くて要点が滲んでしまううえ、質問が出なくなるためコミュニケーションが生まれず、メディアから取り上げてもらえないと指摘しました。
   また同分科会では、マーケティングオートメーションというITを利用した取り組みについて触れられたほか、MICEに関する研修や教育の問題として、欧米ではマーケティングの教育が進んでいること、国内外のMICEに関するセミナーやミーティングプランナーの国際資格であるCMPについて取り上げられ、MICEの推進には地道な努力も必要だが、それだけではなく教育や科学的な戦略が重要だとまとめられた。

[2日目]パネルディスカッション
「インバウンドとMICEを考える」

「インバウンドとMICEを考える」

パネルディスカッションは、日本コンベンションサービス MICE都市研究所所長の廣江 真氏をコーディネーターに、ニセコ町商工観光課 主査のポール・ハガート氏、 JNTO日本政府観光局 理事の山崎 道徳氏、福岡地域戦略推進協議会 シニア・フェローの松田 美幸氏をパネリスト招き、 円安進行の中、東京オリンピック開催をバネに日本のインバウンド市場が急激に拡大に向かう中で、地域のMICEはいかに進むべきか議論しました。
   松田氏からは氏の所属する福岡地域戦略協議会(以下FDC)の成り立ちやそのMICE戦略について紹介。MICEを都市の成長のエンジンとして、一時的な消費活動だけではなく、イノベーションを推進し、ビジネス機会を増やすことを狙い、MICEのビューロー機能を強化、情報アプリの活用や、ボランティアの育成、インフラの整備を進めている現在の取り組みと、福岡地域のMICEの推移について語りました。
   ハガード氏はパウダースノーに目を付けたオーストラリア人デベロッパーと彼らが呼び込んだオーストラリアからのインバウンドで急激に成長したニセコ地域の観光の現状と、エコや開発、受け入れ体制など多様な意味での「環境」を考えたツーリズムを推し進めようとしているニセコ町の観光戦略について語るとともに、ニセコではインバウンドがMICEを呼び込んでいると説明しました。

「インバウンドとMICEを考える」

「インバウンドとMICEを考える」

山崎氏は、中国事業を担当した経験から、訪日旅行で訪れる中国人から見た日本の問題点として、都心などでの交通機関の利用方法がわかりにくいこと、地方ではナイトライフがないことなどをあげました。また「観光立国」は地域経済に大きな利益をもたらすとして、「インバウンド消費」が行われるだけではなく、「インバウンド投資」が行われることで経済が活性化すると語り、その中でも地域のコンベンションビューローの人材育成などソフト面の投資の必要性を強調しました。
   また、各氏は会議中もモバイル機器でインターネットに接続しSNSを利用するMICE参加者にはWi‐Fi環境が非常に重要だとし、山崎氏はWi-Fiへの投資は施設費や設備投資費ではなく広告宣伝費と考えるべきと強調しました。
   さらに、各氏は日本では海外からのMICE参加者がATMでの現金の引き出しや、自国のカードでクレジットカード決済、VISAやMasterCardでのキャッシングを容易に行えるような環境がまだ整っておらず、このことが多くのビジネスチャンスを逃していると指摘しました。
   また、地域のMICE商品開発にはグローバルな視点が重要とし、インターネットで検索されやすいネーミングや、リブランディングの例を挙げ、地域性のある素材から買い手を意識したインバウンド商品の開発や宣伝の必要性を強調しました。

■全体総括

2日間の特別講演、基調講演、分科会、パネルディスカッションを総括して、当研究会の藤田靖幹事長が挨拶に立ち、特別講演では地域観光の情報発信や、広域連携の意義、ビデオによる基調講演ではMICEの意義や原点について、第1分科会では歴史遺産の活用、第2分科会ではMICE業界のジャーナリストより海外の事例やセールスプロモーションの具体例、パネルディスカッションではMICEに関わる様々な立場から日本のインバウンドとMICEの現状とについてなど、多岐にわたる活発な議論が行われた2日間を振り返りました。

■エクスカーション

金沢市内でクラフト&ユニークベニュー体験

今回のエクスカーションは金沢で通常、少人数の観光客向けに行われている伝統文化体験をMICE向けにアレンジ。フォーラム会場となったしいのき迎賓館のイベントホールにて、参加者全員が金澤寿司づくりを体験。出張体験サービスにご協力くださった地元「金澤寿し」さんの粋な計らいで、寿司づくり体験の修了証をもらった参加者は、誇らしげに笑顔で完成した寿司をほおばっていました。その後、バスに乗りひがし茶屋街へ。江戸時代後期から明治初期にかけての茶屋建築が残る町並みの中にある箔座「ひかり蔵」の2階を会場に、エクスカーション参加者59名を2班に分けて金沢伝統の金箔を使った「箔貼体験」を実施。ここでも参加者は繊細な金箔を扱う初めての体験にわくわく。交替時間の茶屋街散策もふくめて、金沢の文化を存分に楽しみました。
   箔貼体験の後には同体験の会場ともなった「ひかり蔵」2階に一堂集結してのMICEサロン・ミーティング。公益財団法人とっとりコンベンションビューローの長谷川理事長をモデレーターに、「コンベンションビューロー、地域PCOの未来」をテーマにワークショップスタイルのグループ討議により意見交換をしました。
   金澤寿司づくり、箔貼体験はともに、観光資源のMICEへの新たな活用事例となり、伝統建築である「ひかり蔵」の箔貼体験とサロン・ミーティングへの活用は、ユニークベニューの新規発掘にもなりました。第1分科会のテーマでもあった地域文化・歴史遺産のMICEへの活用がフォーラムのプログラムにおいて実現され、参加者にも大いに参考になったのではないでしょうか。
   エクスカーションの最後には前田家家老旧横山家迎賓館の辻家庭園(金沢市指定文化財)を見学。続いて、同会場内バンケットルームにて交流会を行いました。バンケットルームの大きな窓からは庭園の様子も見られ、最後まで金沢の文化をそして食を楽しんで会を締めくくりました。

エクスカーション エクスカーション
エクスカーション エクスカーション

次回は、来年3月に岡山市で開催する予定です。

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